オートレースは、1950年に日本で始まったモータースポーツです。

オートレースの歴史を語るには、エンジンの歴史を知っておかなければなりません。

ここでは、オートレースにおけるエンジンと、エンジンを作ったメーカーの歴史を解説します。
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トライアンフ(1950~1993)
「トライアンフ」は、イギリスのメリデン・トライアンフ社が開発した、オートレース用のエンジンです。

「トラ」という愛称で親しまれていたこのエンジンは、オートレースが始まった1950年から1993年まで使用されました。

船橋で初めて開催されたオートレースですが、当初のトラックはダートでした。

1960年代に、政府がダートトラックの危険性を指摘してからアスファルトトラックに移行しましたが、トライアンフはそのあとも活躍し続けます。

メグロ(1950~1995)
はじめての国産エンジンとして登場したのが「メグロ」です。

ダート時代では、トライアンフに比肩するほどの人気を保持しており、国産にこだわる選手からも支持されていました。

馬力が高いことが魅力で、トライアンフのような派手さはないまでも、国産車らしい走りで信頼を獲得しました。

トラックがアスファルトとなってしばらく経った頃、1983年にメリデン・トライアンフ社が倒産します。

これによって、トライアンフを使用していた選手がメグロに乗り換えました。

長年のライバルであったトライアンフを倒した存在として、メグロは再び注目を集めたのです。

しかし、フジに人気を奪われ、メグロもまたオートレースの世界から姿を消していきます。

キョクトー(1954~1993)
1954年に、極東内燃機製作所によって開発されたエンジンが「キョクトー」です。

極東内燃機製作所は、オートレース選手であった中林亀吉さんが創業した会社として知られています。

キョクトーは、メグロの次に登場した国産エンジンとして注目されました。

キョクトーが最も注目を集めたのは、ダート時代の1955年から1965年の10年間です。

ダート時代は、全てのバイクの半数がキョクトーのエンジンを使用しているほどでした。

しかし、ダート時代が終わりを迎え、アスファルトトラックの時代が到来してから、キョクトーは徐々に衰退していきます。

トーヨー(1964~1993)
村越製作所は、主に部品販売と修理を行っていましたが、1964年にエンジン「トーヨー」を発表します。

トーヨーがオートレース界に参入すると、瞬く間にキョクトーを打ち倒します。

さらにトライアンフのシェアを追い抜く存在として注目されていましたが、実際にトライアンフから乗り換えた選手が多かったのは、トーヨーではなくメグロのエンジンでした。

セアが誕生したことで他のエンジンと共に姿を消したトーヨーですが、戸田茂司選手や二田水潤太郎選手、伊藤力示選手など、多くの選手を勝利に導いたエンジンとして知られています。

フジ(1979~1993)
1979年にHKSが発表したエンジンが「フジ」です。

これまでの国産エンジンは、SOHC2バルブのロングストロークタイプで、DOHC単気筒4バルブのフジは性能面でとても優れていました。

長い間活躍したトライアンフから乗り換える選手も続出し、時代はフジのエンジンへと以降していきます。

フジは、1993年に「セア」が登場するまでの14年間、活躍しました。

セア(1993~現在)
1993年に行われたのが、オートレースの歴史上初めてである「全選手一斉乗り換え」です。

この際に登場したのが、スズキ製のエンジン「セア」です。

正式名称を「Super Engine of Auto Race(オートレースのスーパーエンジン)」といいます。

その名前からも、オートレース代表のエンジンになるべくして生まれてきたことがわかります。

高出力で耐久性が高く、現在に至るまで使用されています。

現在のオートレースのエンジンメーカーはスズキのみ

「オートレースにおけるエンジンメーカーの歴史」で解説した通り、これまでさまざまなメーカーがオートレースのエンジンを開発してきました。

しかし、1993年にオートレースのエンジンがスズキのセアに統一されてから、エンジンは全てスズキ製となっています。

これから新しいメーカーのエンジンが出てくる可能性もありますが、その際は再び一斉乗り換えによって、オートレースのエンジンが統一されるはずです。

かつてのように、さまざまなメーカーが競合しながらエンジンを開発・生産することはもうないといっていいでしょう。

オートレースのエンジン排気量による速度の違い

オートレースで使われているエンジンは、セアであることがわかりましたが、セアにも種類があります。

セアの種類はその排気量により2種類に分かれており、500ccの「AR500」と600ccの「AR600」が存在します。

ここでは、それぞれの排気量について見ていきましょう。

AR500(500cc)=120km/h
新人選手がデビュー1年目に使用するエンジンが「AR500」です。

トレーニング期間中に使用されるエンジンのため、排気量も500ccと抑えめなのが特徴です。

2級車として知られており、養成所で教習を受ける際に初めて使用されます。

AR500を搭載したバイクは、直線走行時において最高速度が約100km/hから120km/hに達するとされています。

AR600(600cc)=150km/h
「AR600」は、2年目以降の選手が使用するもので、その排気量はAR500よりも100cc多い600ccとなっています。

このエンジンを使えば、最高速度150km/hに到達可能です。

コーナリング中でも、80〜100km/hの速度を維持することができる非常に優秀なエンジンです。

「オートレースにおけるエンジンの歴史」で紹介した、フジやトライアンフ、メグロなどの663ccと比較すると排気量は少なくなります。

AR600の出力は最高で60馬力(8000rpm)、トルクは最大で6.2kgm(6000rpm)です。

ちなみにバイクの排気量は

・ 50cc以下(原付)
・ 125cc以下(小型二輪)
・ 400cc以下(中型二輪)
・ 650cc以下(大型二輪・AT限定)
・ 排気量制限なし(大型二輪・マニュアル)

の5つに分類されるので、オートレースのバイクの排気量は大型二輪と同じだといえます。

オートレースにおけるエンジンの整備手順

エンジンの性能を最大限に引き出すためには、定期的な整備が欠かせません。

エンジンオイルの交換や、各部品の摩耗チェック、キャブレターの調整などが必要です。

レース前には特に入念なチェックと調整が行われます。

ここでは、オートレースにおけるエンジン整備の過程やポイントを解説します。

エンジン整備の基本
まずはオートレースにおけるエンジン整備の基本を見ていきましょう。

エンジン整備のポイントは、以下の3点です。
①オーバーホール(分解&組み立て)
オートレースのエンジンは
高負荷で動作するため、
定期的なオーバーホールが必要です。
②部品交換
ピストン、シリンダー、バルブなど、
使用に伴って摩耗するパーツを
定期的に交換します。
③エンジンブレーキの調整
エンジンブレーキが正常に動作するように、
エンジンの回転数やキャブレターの
設定を微調整します。

エンジン整備の5つのステップ
エンジン整備の基本について勉強したところで、実際に整備を行う際の手順を見ていきましょう。

オートレースのエンジン整備は、以下の手順で行われます。
STEP1
エンジンの分解

エンジンを分解し、各部品を取り外します。

この際、各部品の状態を細かくチェックし、摩耗や損傷がないか確認しなくてはいけません。

STEP2
洗浄&検査

各部品を徹底的に洗浄し、細かい部分まで異常がないかを検査します。

特に、ピストンリングやバルブのシートなど、精密な部品は厳格なチェックが必要です。

STEP3
部品の交換

摩耗・損傷している部品は新品に交換します。

交換する部品は、すべてオートレース用に特別に設計されたものです。

STEP4
組み立て

洗浄と検査が完了した部品を元に戻し、エンジンを再び組み立てます。

この際、各部品が正確に組み合わさるように細心の注意を払わなくてはいけません​。

STEP5
調整

組み立てたエンジンを実際に動かし、調整を行います。

エンジンの回転数やキャブレターの設定を最適化し、レースに向けて実際にテストすることが大切です。

オートレースのエンジンブレーキについて

オートレースのバイクは、通常のバイクと違いブレーキがついていないため、エンジンブレーキを使用します。

ここでは、オートレースのエンジンブレーキについて詳しく説明します。

オートレースはエンジンブレーキのみ
ブレーキが装備されていないオートレースのバイクにとって、エンジンブレーキはなくてはならない存在です。

選手はエンジンブレーキを使用して速度を調整し、コーナーに進入する際などに減速します。

なぜブレーキがないのかというと、レース中のブレーキ操作による事故を防ぐためです。

エンジンブレーキの仕組み
エンジンブレーキは、選手が踏み込んでいたアクセルを戻すことでエンジンに供給される燃料の量が減少し、減速できる仕組みです。

エンジンの回転数が減るとそれだけ供給される燃料も減るので、しっかりとエンジンブレーキを動作させるためにも、定期的な整備は抜け目なく行わないといけません。

エンジンブレーキを使う3つのシチュエーション
ブレーキのないオートレースのバイクですが、どのようなときにエンジンブレーキを使うのでしょうか。

エンジンブレーキは、特に以下の3つの場面で使用されます。

・ コーナー進入時
・ 他のバイクに接近したとき
・ 混雑時

エンジンブレーキは、主に高速で直線を走行した後、コーナーに進入する際に使用されます。

その他には、他のバイクに近づきすぎた際に衝突しないように減速したり、混雑しているコーナーなどで速度調整を行ったりします。

急な減速は事故のもとになるので、選手は予め何が起こるかを想定しながら、ゆっくりと減速しなくてはなりません。

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